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映画 哀れなるものたち ネタバレ感想 無支配主義者 アナキストなベラとラストのヤギ

哀れなるものたち
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哀れなるものたち

天才外科医の手術によって死から蘇った女性・ベラが各地を旅しながら成長していく話。誰の下にもつかない、誰にも支配されずに生きるベラはさながらアナキスト。ネタバレあり。

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解説とあらすじ・スタッフとキャスト

―2024年公開 英 142分―

解説:「女王陛下のお気に入り」のヨルゴス・ランティモス監督がエマ・ストーンと再び組み、2023年第80回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したSFロマンス。外科医ゴッドウィン・バクスターの手により蘇生したベラは、大陸横断の旅に出て貪欲に世界を吸収する。スコットランドの作家アラスター・グレイによるゴシック小説を基にしている。主人公ベラを演じたエマ・ストーンはプロデューサーとしても参加。天才外科医ゴッドウィン・バクスターを「永遠の門 ゴッホの見た未来」のウィレム・デフォーが、放蕩者の弁護士ダンカンを「アベンジャーズ」シリーズのマーク・ラファロが演じる。(KINENOTE)

あらすじ:不幸な女性ベラ(エマ・ストーン)は若くして自らの命を絶ったものの、天才外科医ゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)の手により奇跡的に生き返る。蘇ったベラは世界を自分の目で見たいという欲に突き動かされ、放蕩者の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)の誘いに乗り、大陸横断の旅に出る。ベラは貪欲に世界を吸収するうちに平等と自由を知り、時代の偏見から解き放たれ……。(KINENOTE)

監督;ヨルゴス・ランティモス
出演:エマ・ストーン/マーク・ラファロ/ウィレム・デフォー

ネタバレ感想

もう2月も終わりに近づいてるのに、ようやく今年(2024年)初めて劇場で観た作品。『フランケンシュタイン』の話が下敷きにあること以外は何も前知識なく鑑賞してきた。序盤の展開は身体の疲れもあってか、ところどころで居眠りぶっこいてしまった(笑)。

で、ベラがダンカンに連れられて船旅に出たあたりからようやく話に集中して観られた。そのあたりでも、この物語がどういう方向に向かっていくのかよくわからんかったのだが、ラストまで観て思ったのは、ベラという女性は、他人(特に男)からの支配を受けずに、誰の下にもつかず、誰かの言いなりにもならず、自らの選択によって人生を生き抜く力のある女性だったということだ。

つまり、彼女はアナキストとも言えそうだ。主体的な生き方をすることで、誰からの支配も受けない、搾取もされない、無支配主義者だったのである。栗原康みたいだね。

これは成人女性の身体を持ちながらも心は赤子である状態から育ったがゆえの帰結なのか、そのへんは何ともわからんが、ともかく彼女は自分の感情に忠実に生きる。食べ物がマズければ吐き出すし、踊りたければ踊るし、セックスしたければするし、相手と付き合い続ける意味がないと悟れば、他人との(恋人)との付き合いをやめるし、娼館で働くことだって自らの意志で決め、そこでの体験を糧にする力があるのだ。もちろん、自分が救いたいと思う人がいれば救う。それだけのことで、そこに道徳的とか倫理的などのフィルターをかけることなく、自らの感情や思いに従って人生を選択するのである。

また、ベラの身体=自殺した女、の元夫が現れ、ラストにいたるまでのくだりで彼女は、自殺した女は“他人”であるから、彼女の人生を背負う必要などまったくないという考えに至り、元夫をヤギにしてしまうのである。

この最後のシーンはなかなか驚きで笑えるシーンであったなぁ。彼女は人非人であった元夫を殺すこともできたが、それはせずに命は救ってやる。彼女流に言うと「進歩」させるということらしい。つまり元夫はヤギになることで進歩したのだということか。そうであるなら、元夫=ヤギ以下の存在であったということになる(笑)。しかし、元夫がヤギになったんであれば、それは元夫ではなくやっぱりヤギなので、元夫という存在としては殺したとも言えるのであり、つまり殺したということではなかろうか(笑)。

いずれにしても、誰からの支配も受けずにいた彼女が、元夫(ヤギだけど)は支配下におくわけで、彼女は無支配主義者なのに、何かを支配してしまっているわけで、そうした矛盾をはらんでしまうことが、どんな主義者でも陥る人間存在の地獄というか、言葉を使って生きる生物の限界であるようにも感じた。

しかし一方で、ヤギになった元夫はすでにヤギであり、人間ではない。それがベラの言う「進歩」であるなら、彼は人間を超えて進歩した存在になったとも言えるのであり、となると、なるほど彼女はヤギを支配しているようで、単に草を食うだけの存在だから支配は及んでいないと考えれば、救ったのだともいえるのかも。

善悪を超えた言葉を獲得するために、みんな人間であることをやめよう

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