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映画 この茫漠たる荒野で ネタバレ感想 退役軍人と少女のロードムービー

この茫漠たる荒野で
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この茫漠たる荒野で

南北戦争を生き抜いた退役軍人と、移民の子で現地人に親を殺され、その現地人は軍に殺されたという、2度親を亡くした少女との交流と絆が深まる過程を描いた西部劇的ロードムービー。派手さはないけど主演のトムハンクス、ヘレナゼンゲルの存在感が光る良作。ネタバレあり。

―2020年 米 118分―

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解説とあらすじ・スタッフとキャスト

解説:2020年に公開されたアメリカ合衆国の西部劇映画である。監督はポール・グリーングラス、主演はトム・ハンクスが務めた。本作はポーレット・ジルズが2016年に上梓した小説『News of the World』を原作としている。本作は日本国内で劇場公開されなかったが、2021210日にNetflixによる配信が始まる予定である。 (Amazon)

あらすじ:1870年。退役軍人のジェファーソン・カイル・キッドは街から街へと渡り歩き、新聞のニュースを読み聞かせることで生計を立てていた。そんなある日、ジェファーソンは道中でひっくり返された荷馬車を発見した。その荷馬車の中には先住民の衣服に身を包んだ白人の少女(ジョハンナ)とリンチを受けた黒人男性がいた。巡回中の軍人から「軍の検問所が近くにあるので、彼女をそこまで連れて行ってほしい。職員がその子を親族に引き渡す手はずを整えてくれるはずだから。」と頼まれたため、ジェファーソンは渋々ジョハンナを検問所まで連れて行くことにした。検問所に到着したジェファーソンだったが、「責任者は出張で3ヶ月間戻ってこない」と言われた。やむなく、ジェファーソンは自力でジョハンナの親族を探し出し、彼女を送り届けることにした。共通点がほとんどない2人は最初のうちこそ、コミュニケーションを取ることすらできないという有様だったが、過酷な旅を通して深い絆を結んでいくのだった。 Amazon

監督:ポール・グリーングラス
出演:トム・ハンクス/ヘレナ・ゼンゲル/マイケル・コヴィーノ/フレッド・ヘッキンジャー

ネタバレ感想

トムハンクス演じるキッド大尉は軍を退役後、さまざまな新聞を買いあさっては、その中から記事を選び出して、訪れた町でそのニュースを紹介するキュレーターみたいなことをしている。

ネットどころかテレビもない時代の話なので、活字でまとめられたニュースは人々にとって貴重な情報源だ。キッドはその土地にいる人々にとって大事と思われる情報を整理し、必要と思うことを届ける。これは講演師として優れた知識と技術がないとできないことだと思われる。

それがわかるのは、終盤、群を制圧してその土地を独裁的に収めようとしている輩が、自分たちの集団がいかに地元でいいことをしているのかを伝えようとするプロパガンダ新聞みたいのを自前で発行してて、それをキッドに読ませようとするんだが、キッドがそれを拒否するシーン。

輩は自分たちにとって都合のいい情報だけを発信したい。キッドはそれに抗って、その土地の人々に本当に必要だと思われる情報を伝達する。

なぜそれをするのかというと、輩が情報統制し、自分たちの支配力を強めることを防ぐためだ。

日々を生きるのに疲れているような民衆たちは自分たちでものを考える暇がない。生きるので精いっぱいだから。

であるから、富や権力のある強者のすることに従わざるを得ない面がある。キッドはそうした人たちにさまざまな情報を届け、自らの考えで選択するためのヒントを与えるのである。

彼のやっていることは、人々を啓蒙する役に立ってはいるものの、その情報の選び方によっては、群を支配していた輩と同じような情報の使い方ができる。しかし、彼はそれをしない。この良心ある講演師であるところが、彼の優れた点なのである。

であるが、受け取り手は本当は、そのすべてを鵜呑みにはしていけないこともわかる。キッド大尉がどんなに善人であっても、彼も全能ではないただの人間なので、彼の発する情報がこの世のすべてではないからだ。それは彼が、自らの手で記事を整理して発信する情報を選んでいることからもわかる。聞き手は常に彼の話をフィルターにかけねばならないのだ。そのようなことを考えさせてくれる良い部分が、この作品にはあった。

そして、今の世の中を生きる人も、結局はこの作品で描かれる時代と似たような状況を生きている。格差が広がり、階級社会がつくられているとも言える現代社会は、文明の利器があるかないかということ以外では、一般大衆の置かれた立場はこの作品の民衆たちと大差はないのである。

つまり、そういう視点から見ればこの作品は現代社会を風刺しているという見方もできる。

で、もう一つこの映画の良さは、キッド大尉と少女、ジョハンナの絆を深めていく過程が描かれるロードムービ的要素にある。常に良心の男であるキッドは、言葉の通じない少女を持て余しているが、決して見捨てることはしない。見捨てられないのである。

であるから、命を懸けて彼女を守ろうとするし、その献身性を知ったジョハンナも、彼に心を開いていく。そして、この少女は非常に聡明な子で、かなり知性が高い人だということが感じられる行動をするようになってくる。

そのため、最後の預け先になった親戚の家では、持て余すような子どもなのだ。子どもを単なる労働力としてしか見られない預け先の人たちには、彼女の能力を活かす術がない。日々を生きるために必死だから、彼女にも働いてもらわなければならないし、教育云々などしている暇はないのである。

ジョハンナは生みの親と育ての親をなくしているが、過去を振り返ることにためらいがない。それは彼女が前を見て進むために必要なことなのだ。いっぽうキッド大尉は自分の嫁が亡くなったつらい過去に向き合うことができない。

この面においては、ジョハンナのほうが人生を前向きにとらえて強く生きようとしている。キッド大尉は実は、前を見て生きる覚悟がなかったのだ。妻を失った喪失感から、生きることに実は絶望しているのである。

しかし、ジョハンナを預けて一人になったときに、彼はついに妻との死に向き合う。そして、自分自身にとっての希望がジョハンナの存在であることに気付くのだ。二人はお互いにとって、欠かすことのできない絆で結ばれていたのである。

2020年、日本では未公開だったらしいけど、なんでだろうか。ともかく一見の価値ある作品です。

この作品はネットフリックスで鑑賞できます。

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