ディアスキン鹿革の殺人鬼
鹿革のジャケットに悩殺されたオッサンが、自分以外にジャケットを着ている奴を抹殺し、自分のジャケットを完璧なものにしようとする話。ホラーっぽい内容だけど、非常にシュールな展開で笑わせてくれるシーンも多い、印象的な作品。けっこうおもしろいです。ネタバレあり。
―2019年公開 仏 77分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:「アーティスト」のジャン・デュジャルダン主演のスリラー。ジョルジュは憧れの鹿革のカウボーイ風のジャケットを手に入れる。その鹿革への執着が、やがて自分以外でジャケットを着る人への憎悪へと変わっていき、彼は街中で“死のジャケット狩り”を始める。監督は、「ラバー」のカンタン・デュピュー。シネマート新宿・心斎橋『のむコレ3』で上映。(KINENOTE)
あらすじ:夢にまで見た憧れの鹿革ジャケットを手に入れたジョルジュ(ジャン・デュジャルダン)。フリンジのたっぷりついたカウボーイ風のジャケットは完璧で、それを着た自分はさらに非の打ちどころがないほど美しかった。その異常なまでの鹿革への執着が、やがて自分以外でジャケットを着る人間への憎悪へと変わっていく。ビデオカメラを片手に街へ出た彼は、“死のジャケット狩り”を始める……。(KINENOTE)
監督・脚本:カンタン・デュピュー
出演:ジャン・デュジャルダン/アデル・エネル
ネタバレ感想
超適当なあらすじ
奥さんから「あなたはもう存在していない」と言われちゃうくらいに嫌われちゃった男、ジョルジュは、奥さんとの共同口座の金を使って、念願だった(らしい)鹿革のジャケットを手に入れる。個人的には、ぜんぜんかっこよく見えないジャケットだったが、ジョルジュはいたく気に入ったらしく、そのジャケットを即決で購入。
その店の店主はなぜか、おまけにビデオカメラまでくれちゃう太っ腹。なぜおまけがカメラなのか意味不明だが、とりあえずジョルジュはそのままホテルを借りて、しばらくそこに暮らすことにした。しかし、特にあてがないのでバーで飲んでたら、ウェイトレスのドゥニースが映画編集者になりたいことを知り、成り行きで話している自分は映画監督というウソをつくことになり、その嘘が誠になって、マジメにジャケット映画を撮影することに決めるのだ。
ついでにジョルジュはあまりにも鹿革ジャケットに愛情を注ぎ過ぎたため、ジャケットと会話ができるようになっちゃう。ジャケットには「偉大な夢」があるらしく、何でもそれは、「自分以外のジャケットを見たくない、自分だけが世界で唯一のジャケットでいたい」ってなものらしい。
ジョルジュはその夢を実現することを約束し、撮影を進めていく。途中までは金で雇った出演者たちのジャケットを狩るさまを撮影するだけだったが、そのうちにジャケットを奪うだけでなく、その持ち主を殺すようになっていく。ジャケットを着ている人間が許せないからだ。
撮影した映像を編集するためにテープを鑑賞したドゥニースは、自分自身の映画熱が燃え上がってくることを感じ、積極的にジョルジュの撮影に協力するようになっていく。
そしてある日、二人で出かけて撮影してたら、ジョルジュはライフルで射殺されてしまう。犯人はジョルジュが以前イジメた少年の父親であった。ドゥニースはそれでも撮影する手を止めず、死体となって横たわるジョルジュからジャケットを脱がせて、自分がそれを見にまとうのであったーーというのが超適当すぎるあらすじ。
説明があまりないヘンテコ作品
アマゾンプライムで見つけて鑑賞。もっとスプラッターな話かと思ってたら全然そんなことはなく、シュールな展開の中にクスっと笑える描写のあるコメディチックな印象の作品だったなぁ。
物語内にはほとんど説明が省かれていて、例えばジョルジュはどうして奥さんと一緒にいられなくなったのか、なぜ鹿革ジャケットに執着するのかなどは謎。ジョルジュをつけまわして石を投げられた少年は何であんなことをしてたのかもよくわからん。
ラスト、その少年の父(明確に父とは説明されてないが、たぶん父親だろう)がジョルジュを射殺するわけだが、あれはドゥニースに先導されたものなのか、父が自らジョルジュの居所を突き止めたのか、どちらなのかの説明もない。見た感じ、ドゥニースが何の驚きもなく冷静でいるところを見るに、おそらくドゥニースも一枚嚙んでいたという前者の解釈を俺はしたんだけど。
ドゥニースは映画制作熱が強すぎて、自分の好きなようにジャケット作品を撮りたくなったんだと思う。それがラストの振る舞いにつながるんだろうね。それはそれでいいんだが、そうさせたのは、ジャケットの呪いというか意志みたいなものなのか、それともドゥニースの内から出てきた意志なのか、その辺も描かれない。
ジョルジュは明確に頭がおかしくなっているんだと思うが、あんだけ大胆に殺人してたらすぐに警察に捕まりそうなもんだ。でも、そういう常識的な観点でこの作品を観ちゃうと、全編突っ込みどころしかないので、その辺を気にしちゃだめなんだろうねぇ。
鹿革に悩殺される男(笑)
でまぁ、上記のようにあいまいな部分や変なところもあるんだけど、そういうのも含めて俺はこの作品を大いに楽しんでしまった。なんだか不思議な魅力があるし、ユーモラスなのだ。
例えば、ジョルジュは鹿革ジャケットに合わせて、ハット、ブーツ、パンツ、手袋など、すべてを鹿革でスタイリングしていくんだけど、ブーツを試着してる際に「悩殺だ」とそのコーディネートにメロメロになっちゃう。なんだよ、悩殺って(笑)。
他にも、殺人を犯すにあたっての凶器が、天井のファンってのが非常に斬新。ファンの切れ味を増すために、運転中の車からファンを外に出して、路面との摩擦で研いでいくという、日本刀を路面にこすって突撃してくる、『ブラックレイン』の松田優作か、または漫画、『特攻の拓』で、バイクにまたがりツルハシを路面にこすりつけつつ登場する武丸バリの狂気の姿が拝めるのである。ただ、拝めるといっても引きのショットなので、ジョルジュの表情は確認できない(笑)。
とかまぁ、短い時間の中に満載のヘンテコ描写が楽しめる作品でありました。この監督は他にも評判のいい作品があるみたいなので、今後も注目していきたいでありんす。
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