ファイブ・デビルズ
嗅覚が異常に優れた少女が、母親の香りを利用して過去にタイムリープする能力を発現。愛する母の過去を知る中で、自らの日常が変わらざるを得ない結末を迎えていく。タイトルの意味する5人の悪魔とは誰なのかーーネタバレあり。
―2022年公開 仏 96分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:「アデル、ブルーは熱い色」のアデル・エグザルコプロス主演で贈るタイムリープ・スリラー。嗅覚に不思議な力をもつ少女ヴィッキーは、叔母との出会いで新たな能力が開花。母と叔母の封じられた記憶にタイムリープする。それが家族の運命を変えることに……。アルノー・デプレシャン、ジャック・オディアールなどの下で脚本を手掛けてきたレア・ミシウスの日本初公開監督作。(KINENOTE)
あらすじ:嗅覚に不思議な力をもつ少女ヴィッキー(サリー・ドラメ)は、こっそり母ジョアンヌ(アデル・エグザルコプロス)の香りを集めている。そんな彼女の前に突然、謎の叔母が現れる。これをきっかけに、彼女のさらなる香りの能力が目覚め、自分が生まれる前の、母と叔母の封じられた記憶にタイムリープしていく。やがてそれは、家族の運命を変える予期せぬ結末へと向かっていく……。(KINENOTE)
監督:レア・ミシウス
脚本:レア・ミシウス/ポール・ギローム
出演:アデル・エグザルコプロス/サリー・ドラメ/スワラ・エマティ/ムスタファ・ムベング/ダフネ・パタキア/パトリック・ブシテー
ネタバレ感想
勝手に勘違いしてた内容
劇場公開時から気になってたのは、この作品が俺の好きな時間移動系の作品らしいからだ。だが、劇場に行く機会がなかったので、配信レンタルでようやく鑑賞できた。前情報をほとんど入れずに観たので、当初ジャケットの女性(ジョアンヌ)の服装が派手なのは舞台が中世くらいで、彼女が来ているのは貴族たちの社交界での衣装なんだろうと勝手に思っていた。
であるから、現代のフランスの田舎町に生きるジョアンヌが、中世にタイムリープしてジタバタする話なのかと思ってたんだが、ぜんぜん内容が違った(笑)。
同性愛者同士のラブロマンス
今作でタイムリープ能力を持つのは彼女の娘であるヴィッキー。この子はジョアンヌが白人なのになぜか肌が黒いので、父親は黒人なんだろうなと思ってたらその通り、セネガル系の人(ジミー)なのである。
じゃあ何でジョアンヌとジミーが結婚することになったのかというのは、この作品では描かれない。そして、何で匂いによってヴィッキーがタイムリープできるのかも描かれない。じゃあ何が主に描かれるのかっていうと、ジミーの妹(ジュリア)とジョアンヌが、互いに愛し合う気持ちを再燃させる、同性愛者同士のラブロマンスなのであった。
その物語を軸に、白人とアフリカ系黒人などさまざまな人種が混在するフランスという国のメタファーとして閉塞的な村を舞台にして、そこに住む人々の差別意識などを描いているように思われる。ところがその大きな問題はけっこう放置されてる感がある。例えばヴィッキーは黒人であるがゆえに白人の子どもたちからいじめられているのに、その問題は棚上げにされているように感じた。
それよりも、愛し合っていたジョアンヌとジュリアが、ジョアンヌの未来の子どもという存在によってお互いの関係が引き裂かれ、その情熱を消すことなく現代に生き続けていたのに、ヴィッキーによってお互いの愛を再燃させて、二人で生きていくことを決意するという顛末が物語の主軸として描かれている。
つまりヴィッキーにとっては愛する母を憎むべきジュリアに奪われてしまうという因果なラストを迎えることになるのだ。ここで実にややこしいパラドクスが起こっているわけだが、ともかくそういう結末に至るのだ。
個人的な当初の想像とはまったく異なる物語展開であったが、さまざまなシーン、そして全体に深みのある意味が込められているように感じられて、その辺がフランス映画的だなぁと思わせるし、俺が述べた上記のような感想とは異なる解釈をする人もいるであろう、奥深い内容でなかなかに楽しめる作品であった。
ラストの少女は誰?
で、ラストで取り残されたジミーとヴィッキーは二人で生きていく決意をするわけだが、そのシーンに突如、謎の少女が現れて物語は終わる。おぉ、この子は誰なの? と考えると、二つの解釈が出来そうに思える。
一つ、この謎の少女は、未来のヴィッキーが設けるであろう彼女の子どもだということ。ヴィッキーの子どもも彼女と同じ能力を持っていて、母親の過去を見に来ているのだ。
二つ目は、ジミーと彼の元恋人であり、放火騒ぎで火傷を負ってしまうナディーヌの間にできた子であるということ。この場合、謎の少女はヴィッキーの腹違いの姉妹ってことになるわけだが、個人的にはこっちの解釈のほうがしっくりくるかな。
ジミーはなぜジョアンヌと結婚したのかは描かれてないので謎だが、二人は愛し合っていない関係であって、ジミーが無表情な能面野郎なのは、感情を押し殺して生きていたからだ。だからナディーヌとの情事ののち、ジョアンヌと妹であるジュリアが去っていったときに、彼はついに感情を取り戻して、ヴィッキーの前で泣くのである。
5人の悪魔は誰?
てな感じでいろいろ考えると、この物語のタイトルである5人の悪魔とは、ジョアンヌとジュリア、そしてヴィッキーが悪魔として数えられるであろう。ジョアンヌとジュリアは閉鎖的社会の破壊者として、ヴィッキーは自らの存在においてジョアンヌとジュリアを縛るものとして。
では、あとの二人は? おそらく一人はラストの謎の少女ではなかろうか。今後のヴィッキーの生活を破壊する存在になるのかも。で、あと一人。ナディーヌは単なる被害者的な感じの人なので除害すると、ジミーが該当しそうだが、ジミーも考えてみればナディーヌと同じく被害者的立場にあるように思えるので、これもナシにすると、あと考えられるのは、同性愛者に対する差別意識を捨てようとしないジョアンヌの父かーーなどと思いもするのだが、どうだろうねぇ。ようわからん。
なので、ちょっと検索してみたら、この作品のポスターとして登場するのは、ジョアンヌ、ジュリア、ヴィッキー、ナディーヌ、ジミーらしいので、この5人が悪魔ってことなのかもね。
ともかく、なんだかようわからん作品ではあるのだが、実に楽しめる内容であった。ジョアンヌを演じた人はアデル・エグザルコプロスっていう人らしいが、この人がジェシカアルバに似た感じに見える、とてもナイスな美人であったとこもよろしいでしたな。
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