ダウンサイズ
―2018年公開 米 135分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」のアレクサンダー・ペイン監督による異色SFドラマ。身体を13cmに縮める技術が開発され、人口問題を解決するべく人類縮小計画が持ち上がる。サフラネック夫妻は裕福に暮らせることに惹かれ小型化を決意するが……。「ジェイソン・ボーン」のマット・デイモンが主演するほか、「ゴーストバスターズ」(2016)のクリステン・ウィグ、「007 スペクター」のクリストフ・ヴァルツらが出演、風刺が込められたユーモラスな近未来ドラマを綴る。第74回ヴェネツィア国際映画祭オープニング作品。(KINENOTE)
あらすじ:ノルウェーの科学者が人間の身体のサイズを13cmに縮小する方法を発見。それを受け、地球規模の社会問題となった人口過多を一気に解決するべく、全人類縮小200年計画が持ち上がる。ネブラスカ州オマハでごく普通の生活を送るポール・サフラネック(マット・デイモン)と妻オードリー(クリステン・ウィグ)は、縮小化すれば少しの蓄えでも裕福になれ幸せな生活が約束されることに惹かれ、13cmの身体になろうと決心するが……。(KINENOTE)
監督・脚本:アレクサンダー・ペイン
出演:マット・デイモン/クリストフ・ヴァルツ/ホン・チャウ/クリステン・ウィグ/ウド・キア/ジェイソン・サダイキス/ニール・パトリック・ハリス/ローラ・ダーン
ネタバレ感想
小さくなれば、生活が楽になる
ネットフリックスで見つけて鑑賞。ぜんぜん存在を知らなかったんだけど、あまり面白くないから話題にならなかったということではないか。
最初から最後まで何かありそうな感じがしながらも、大したことは起こらない。
一番の見せ所はどこか。主人公のポールと奥さんのオードリーがダウンサイズを決意するまでの導入部も別にどうということもないし。
科学者が人間のサイズを縮小するという画期的な発明が成され、その技術を利用して、縮小化した人間の世界をつくる計画がスタートする。その目的はエネルギーや食糧の消費などを抑えることで地球の気候変動や人口増加による食料危機を防ごうとするものらしい。
しかし、ポールたちがダウンサイズした世界に移住を決めるのは、上記の目的に協力するためではない。消費する対象が縮小化されれば、おのずとその価格は下がることになるわけで、生活が楽になるのだ。
であるから、住宅なども安く購入ができるし、食費も当然節約できるようになる。要するに衣食住にかかる費用がコストダウンできるのであるから、確かに生活は楽になるだろう。
このプロジェクトの目的は上述したような人類の危機的状況を回避するものなんだけど、実際に移住してくる人たちにとっては、生活を豊かにするための手段としてのものなのである。ポールが知り合う隣人などは、縮小化されたことを利用したビジネスなどをしていて、それも生活を楽に、豊かにするためのものに他ならない。
奥さんは酷いやつだ
てなことで、奥さんと一緒に検討した結果、ポールはダウンサイズした世界に意気揚々と出かけていくわけだが、ポールがダウンサイズの手術を終えて目覚めてみると、その世界には奥さんがいないのだ。なんと、あろうことか、奥さんは「眉毛をそられた、スキンヘッドにされた」などを理由にして、ダウンサイズを拒否するのである。
このシーンがこの作品の一番のズッコケポイントだ(笑)。体中の体毛をツルツルにするのなんて、事前に知らされているだろうに、この人は何をトボけたこと言ってるんだろうかと、呆気にとられる。ポールはそれにうろたえていろいろ説得するが、彼女とは結局離婚することに。これはひどい。酷い女だなぁと思いました。
で、ここまで鑑賞しても、この映画はどこを目指している物語なのかがよくわからない。縮小化した世界に移住した夫婦がリアル世界との違いに戸惑いつつもジタバタする話なのかと思ってたら、その役割を果たすために必要な一人が、作品から消えちゃうからね(笑)。
ベトナム人女性と出会って、生き方が変わる
その後はどうなっちゃうのかというと、失意の中で日々を暮らしてたポールが、パーティばっかやってる隣人と出会い、そいつのパーティに行ったことで、ベトナム人の女性と知り合うことになる。
社会活動とかしてたこの女性は図らずもダウンサイズされて、しかも足まで切断する目にあってるのになかなかにパワフルで、ポールは彼女の生きる力に引っ張られるようにして生活を送るようになる。
ポールはもともと医者になりたかったらしいが、それがかなわず、通常の世界では作業療法士として勤めていた。そして、ダウンサイズの世界ではなぜかコールセンターみたいなところで退屈な仕事をしている。
そんな彼が、ベトナム人の彼女と行動を共にするようになってから、人の助けになるような活動をすることにやりがいを感じるようになっていく。
そうやって見てみると、これはポールの成長物語なんだろうなと思うんだけど、実は彼は流されるままに生きているだけで、自分の意志で何かを決定しているわけでもないので、なんかあまり、成長している感はない。
まぁしかし、そうやって過ごしているうちに、ベトナム人の女性と好い仲になってくるわけだ。
ポールの選択
最終的に、ポールは彼女とともに向かったノルウェーの集落(最初のダウンサイズの町)で、彼女を選ぶか、地下のシェルターに潜る人類生き残りプロジェクトに参加するかの選択を迫られることになる。
この展開もけっこう急で、そもそもノルウェー行きになる話もけっこう唐突だったんだけども、その辺は人生はそういうものなのだと考えれば、そういうこともあっておかしくないなと思うのでいいとする。
ともかく、ポールは終末思想的な思いに駆られてシェルターに逃れようとする一団に、一度はついて行くことに決める。何者でもなかった自分が、人類が生き残るというプロジェクトに加担できることに、使命感を感じたからのようだ。
しかし、同行者の彼女や隣人たちは、元の街に戻るというのだ。つまり彼らは、ポールが参加しようとしているコミュニティを、カルト集団という目線で見ているのである。
それでも集団について行こうとしたポールなんだが、なぜか突然、踵を返してベトナム女性たちのもとにもどって、彼女に自分の思いを告白。相思相愛を確かめてハッピーエンドとなるのだ。ポールは体毛を剃るのを拒否してポールと共に生きる人生から逃げた元妻とは異なり、ベトナム女性と一緒に生きる生活に戻ることを決意するのだ。
けっきょく何を描こうとしたんだろうか
ここが彼が唯一、一人で決断した物事のようにも見える。ともかくこの物語は、いろいろとモヤモヤした生活をしていたポールが、愛する人間がいる場所で生きることを決めるまでの成長を描いた、SFロマンス作品だったということだろうか。
たぶんそうなんだと思う。ダウンサイズすることによって生まれる、元のサイズの人間との差別意識や分断の発生など、風刺的な面もあるし、人口過多や気候変動の問題を取り上げているところにも何かメッセージがありそうな気もするんだが、掘り下げは少ない。
後半なんかは、もはやダウンサイズしていることの意味が、シェルターに逃げ延びるためのメリットぐらいにしか使われてなくて、元のサイズの人間たちとの差異なんてのは、ほとんどなくなっちゃってるからね。
てなことで、そんなに面白い作品ではなかったな。
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