アリスの恋
―1975年公開 米 112分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:突然の事故で夫を亡くした中年女性とその長男の旅を描く。製作はデイヴィッド・サスキンドとオードリー・マース、監督は「ミーン・ストリート」の新人マーティン・スコセッシ、脚本はロバート・ゲッチェル、撮影はケント・ウェイクフォード、音楽はリチャード・ラサール、編集はマーシア・ルーカス。出演はエレン・バースティン、クリス・クリストファーソン、ビリー・グリーン・ブッシュ、ディーン・ラッド、レリア・ゴルドーニ、レーン・ブラッドバリー、ヴィック・タイバック、アルフレッド・ルッターなど。(KINENOTE)
あらすじ:32歳のアリス(エレン・バースティン)は、突然未亡人になってしまった。夫のドン・ハイヤット(ビリー・グリーン・ブッシュ)がトラックの運転中に事故死したのだ。必ずしも愛してはいなかったけれども、ショックだった。アリスは、12歳になる一人息子のトム(アルフレッド・ルッター)に、ソコロを引き払って、故郷のモンタレイへ帰り、子供のときからの夢だった歌手として出直したいといった。ただ葬式で所持金を使い果たしていたので、旅費は途中のバーなどで歌いながら、稼がなければならなかった。当分、モーテル暮しが続くかと思うと、トムはあまり気乗りしなかったが、母親がそう決めた以上、むげに反対もできなかった。西へ向かって、親子の旅が始まった。アルバカーキで、アリスは歌の仕事にありついた。ほっとすると男が近づいてきた。ベンという若者だった。デートするようになり、帰りも遅くなった。トムはモーテルで一人ぽっち。当然アリスへの反抗心が頭をもちあげてきた。やがてベンの妻リタ(レーン・ブラッドバリー)が現われ、ベンの狂暴な正体が割れた。ベンは手のつけようのないサディストで、リタをしたたか殴りつけた。動転したアリス親子は、とるものもとりあえず、荷物をまとめて町を飛び出した。せっかく、いい仕事が入ったというのに。ツーソンまできたが、歌の仕事はなく、やむなくアリスはウエイトレスとして働くことにした。そこではデイヴィッド(クリス・クリストファーソン)という男が、親しげに声をかけてきたが、アリスは心を許さなかった。それでも彼は店によくきてトムと仲良くなり、自分の農場に連れていった。その縁で、やがてアリスも農場へ行くようになり、デイヴィッドとの間にロマンスが芽ばえた。トムは、デイヴィッドを嫌いではないが、母親と仲良くされると、なぜか嫉妬心がわく。トムの慰めは、おしゃますぎる少女オードリー(ジョディ・フォスター)だけだった。一緒にワインを呑んだり、泥棒したりして遊び回った。とうとうある日、トムはデイヴィッドに徹底的に反抗した。どうにも素直さのないトムに腹を立てたデイヴィッドは、思わず彼を殴りつけてしまった。驚いたのはアリスだった。どんな理由があろうと、自分の息子への暴力は許せなかった。アリスはデイヴィッドに絶交を告げ、トムのあとを追った。しかし、そんなアリスにも、トムは悪態をついて、どこかにいってしまった。その晩、アリスの心配をよそに、トムはとうとう帰ってこなかった。翌朝、警察からの電話で、トムが事もあろうに酒の呑みすぎで正体不明で補導されていることを知り、もらいさげにいった。そして、昨晩はデイヴィッドには言いすぎたと思ったけれども、今さら謝れず、レストランにやってきたデイヴィッドを冷たくあしらった。そして後悔があとからやってきた。とうとうアリスは故郷へ帰ることを決心した。だが、デイヴィッドが店にやってきて、みんなの前でアリスを抱きしめ、結婚を申し込んだ。もちろん、アリスに異存はない。トムも心から祝福してくれるだろう。アリスは、今まで感じたことのない幸福感をかみしめていた。(KINENOTE)
監督:マーティン・スコセッシ
出演:エレン・バースティン/クリス・クリストファーソン/ビリー・グリーン・ブッシュ/ダイアン・ラッド/レリア・ゴルドーニ/レーン・ブラッドバリー/ジョディ・フォスター
ネタバレ感想
20代の頃にBSかなんかで鑑賞して、けっこう面白かったのでDVDを購入し、たまに気が向いた時に再鑑賞している本作品。マーティンスコセッシ監督作の中では少し陰に隠れているようにも感じるし、あんまりこういうハートフルな作品をつくる人の印象がないので、けっこう意外と言えば意外だ。
驚くのは、アリスの息子にとって救いとなる、不良少女なんだけども、これってジョディフォスターが演じてるんだよね。最初に観たときは全然知らんかったけど、マジで驚き。少女というよりは男の子にしか見えない。同じような年ごろの時に出てた『タクシードライバー』と比べても全然違う人に見えちゃう。
あと、ハーヴェイカイテルもドメスティックバイオレンス野郎のベンとして登場してる。この人って、こういうイカれた役柄を演じると本当に怖い。特にこの作品での彼の眼はヤバい(笑)。ベンは最初、笑顔でアリスに近づいてきて、優しそうな感じなんだけども、誘い方はけっこう強引なので、この時点でけっこう怪しくて、アリスの家に乗り込んできたときは、暴力が服着て歩いているような剣幕で部屋に侵入してくるから、マジで女性の立場だったら恐ろしくて仕方ないだろう。
んで、本性を現した彼は、「俺はこういう人間なんだ!」と恥じることもなく言ってのける。どんな関白宣言だよと思うものの、アリスではなく、彼の奥さんのほうは、こういう輩と毎日暮らしていたわけで、何でそんなことが可能なのか、俺には理解不能。
DV野郎を恋人なり旦那に持つ女性ってのは、本当にどういう心境で日々を暮らしているんだろうか。例えば、芥川賞作家の西村賢太氏の私小説では、彼がモデルであろうと思われる主人公が、恋人にDVをかますシーンのある作品が数多くあるけども、それは暴力する側の心境が書かれているのであって、暴力される側の女性がなぜそれでも彼と付き合いを続けていたのか、その辺はよくわからん。
しかし、その理由はいろいろあるんだろうなとは思う。こういうのって、アリスのように着の身着のままで逃げるか、誰かに相談するくらいしかないんだろう。本人と話し合うとか、一人で解決できるような相手だったら、こんなことにはならないわけで。
てなことで、アリスはせっかく見つけた歌の仕事も捨て、雇い主に挨拶もすることなしに、ベンから逃れるために別の土地へ移動するわけだ。
移動先でもアリスは男に言い寄られることになる。これがデイヴィッドで、こいつとアリスはゴールインすることに。でも、このオッサンもけっこう暴力野郎の片りんを見せていたが、あれは大丈夫なんだろうか(笑)。いずれにせよ俺は、この作品を観るたびに、自分もああならぬように気を付けたいと思うのである。気を付けられているかどうかは、わからん。
この作品がにわかに楽しくなってくるのは実は、アリスがベンから逃れてやってきた町で、ウェイトレスとして働くようになってからだ。アリスが働く店の女性や店主が非常にユニークだし、仕事の初日にミスをしまくるアリスの様などがコメディ的に見られて、けっこう笑える。
そして、ここからは息子のトムがより重要な役割を果たすようになり、上述したジョディフォスターとの絡みなどが出てくる。他者が少しずつアリスの周りで動き始めることで、物語に奥行きが出てくるような感じなのである。
で、最終的にはハッピーエンドを迎えるわけだが、こうして鑑賞してみるに、この物語って、生意気なガキであるトムがけっこう大人な奴なんだなということがわかる。母親に対してやデイヴィットに対してはガキそのものの振る舞いしかしてないように見えてたんだけど、実は、母親のアリスのほうが、子どもだなと思わせるシーンもたくさんあることに気付く。
そもそもアリスは男がいないとダメーーみたいな人間で、そうした部分から自立すんのかなと思わせておいて結局はデイヴィッドくっつくのであり、やはり依存の道を選んだと見えなくもない。しかも、それってトムの協力がなくてはできなかったことである。トムは最初、デイヴィッドと親しくなるアリスを見てて、嫉妬心から反抗的な態度をとったりしてたわけだが、最終的に二人のことを認めてやっているのである。
かたやアリスは、物語を通して息子を愛していることはわかるんだが、彼自身の意見だのなんだのは、さほど聞いていないように見える。どちらかというと、自分の事情を優先している。最初に息子のほうを篭絡したデイヴィッドは見事ではあったが、けっきょくは息子が妥協してやらなくては、この2人は結ばれていないのである。ね、大人だよね。
コメント
長年のスコセッシファンですが、アリスの恋について論評している文献を探していたら、ここにたどり着きました。
楽しく拝読させていただきました。ありがとうございます。
とくにイカれた役を演じるハーベイカイテル評の部分は爆笑してしましました。
楽しく読んでもらえたとは嬉しいです。コメントまでいただけてありがたいです。ハーベイカイテルは好きな役者なので、この作品のバイオレンスな彼もけっこうイイなぁと思ってます(笑)。