マイケル・ムーアの世界侵略のススメ
なかなか笑えるし、楽しみながら学べるドキュメンタリー。マイケル・ムーアが西洋諸国を巡り、アメリカでは実施されていない先進的な社会制度を知っていく過程で、鑑賞者はアメリカの実情を知ることになる。日本人の鑑賞者は、自国がアメリカと同じ穴の狢だと思うのではないか。ネタバレあり。
―2016年公開 米 119分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:「ボーリング・フォー・コロンバイン」のマイケル・ムーア監督による世界侵略をテーマとしたドキュメンタリー。アメリカ国防総省の相談を受けたムーアは、侵略者として自ら空母でヨーロッパに向かい、侵略する国に存在する“あるモノ”を略奪する。(KINENOTE)
あらすじ:これまでの侵略戦争の結果、アメリカ合衆国はまったく良くならなかった。国防総省の幹部らは悩んだ挙句、政府の天敵である映画監督のマイケル・ムーアに相談する。幹部らの切実な話を聞いたムーアは国防総省に代わって自らが“侵略者”となり、世界各国へ出撃することを提案する。そして侵略する先々で“あるモノ”を略奪するために、空母ロナルド・レーガンに搭乗し、大西洋を越えて一路ヨーロッパを目指す。(KINENOTE)
監督・脚本・製作・出演:マイケル・ムーア
ネタバレ感想
内容
第二次大戦後も戦争をいっぱいしてきたのに、なかなか国がよくならないアメリカ。政府に頼まれたマイケル・ムーアは、コストをかけずに自分が世界各国を侵略する約束をする。彼は各国の、アメリカにはない優れた社会制度を取材し、それをアメリカにも持ち帰りたい場合、「侵略」と称してその国の制度を真似る許可を得てから、次の国へ向う。諸国を巡るうちに彼は、アメリカという国が進むべき方向を見出していく――という感じの内容。
中盤までにかけては、皮肉と風刺がきいた感じの楽しめる描写がたくさんあって、おもしろい。
アメリカの凋落
イタリアの休暇制度、フランスの学校給食を通じた食育、ドイツの自国の歴史を受け止めたうえでの教育、フィンランドの教育、死刑のないノルウェーの収監の仕組み、麻薬など薬物使用を犯罪の対象としないポルトガル、革命後のチュニジア、金融危機を女性が救ったというアイスランド。
――こうしたヨーロッパ諸国と北アフリカの国を取材することで浮き彫りになるのは、自由主義国家、アメリカの凋落ぶりだ。時折入るアメリカ国内の描写が修羅の国に見えてくる(笑)。しかもどの国も、もともとはアメリカが始めたことを手本に、制度を推進しているってところが皮肉だ。
日本もアメリカみたいなところがある
この作品を観ていて嫌だなって思うのは、今のアメリカの姿、日本も重なる部分があると感じさせるところだ。さすが戦後以降、アメリカの属国みたいなことをしてきた国だなって思うくらいにアメリカっぽいところがある。格差社会が進んでいるところなんて、特にね。
では、ムーアが訪れた各国がユートピアかというと、もちろんそんなことはない。いいところばかりをクローズアップしているだけで、各国にそれぞれ問題や課題があるのは当然のことである。しかしまぁ、そこに言及し始めたら何の作品だかわからなくなるので、それは仕方のないことだ。知りたいと思った部分は、自分が新たに勉強すればいいわけで。
終盤のほうが少し…
ただ、ちょっと違和感あったのは、あまりコメディ描写がなくなってくる終盤のほう。特にアイスランドを取材していたときに、「金融危機は男性が投資などの仕事を担っていたから起きた。女性は形のあるものを信頼するので、ああいうことは起きなかった」的な論調になるところ。一面的には間違いではないと思うものの、断言できるようなことだろうか。
意見として紹介するのはいいとしても、そこからなんか、女性が男性より優れているみたいな内容になってる気がして、なんかなぁと思った。どっちかに優劣をつけて話を進めなくてもいいんではないかと。現状の世界に男根主義的要素が多分に残ってはいるのは認めるにしても。
あとは、ちょっと長尺でだれたかなという印象。でも、総じていえば勉強になるし、特に序盤はけっこう笑える部分があって楽しめた。
余談でギリシアに行った話
ちなみに、俺はヨーロッパだとギリシアのアテネに行ったことがある(2018年8月に)。
あの国も本作で出てたイタリアみたいに、のんびり働く感じな国らしく(ヨーロッパ諸国はどこもそうらしいけど)、昼くらいまでは食事をする店がほぼ閉まっていた。スーパーは少なく、見かけたときに入店して買いたいもの買っておかないと次に見つけるのが大変。飲料とか軽食くらいならキオスクみたいな店がいっぱいあるので何とかなるものの、現地の人は食材とかどこで手に入れているのか、謎であった。
何が言いたいかというと、ギリシアの人々も、ゆったりとした感じで働いていてうらやましいなと感じたことだ。
ギリシアを旅行していて、アジアの人たちって朝早くから活動始めてて働き者だなぁって思った。俺はアジア旅行するのも好きなんだけど、東南アジアとか東アジアの国だと、朝から外で食事ができる店がいっぱいある。
あと、日本以外のアジアの国々を旅行すると、ほぼ必ず経験するといってもいい、観光地での客引きや物売りのしつこさは、ギリシアにはなかったな。観光客相手に商売している人たちが、あんまりガツガツしてないのだ。その辺は本当に快適で、歩き回るのには気楽でいい国であったなぁ。ご飯の種類が少ないのが困るが。
ついでに紹介しておくと、アテネの中心部から電車で二駅ほど離れた街にも行ったんだけど、そちらは駅から遠くなるにつれゴーストタウンのような感じになってて、アーケードに面した通りが軒並みシャッター街化していて驚いた。
真昼間から薬やってるとしか思えない立ち居振る舞いの兄ちゃんもいて(実際そういう人が多い地区らしいので、キメてたんだろうね)、観光地からちょっと離れた街だと、近年の財政危機の影響が残っていることを感じたであります。
コメント