オマールの壁
―2016年公開 巴 97分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:「パラダイス・ナウ」のハニ・アブ・アサドが、パレスチナに生きる若者の日常を綴った鮮烈なドラマ。分離壁を越えて恋人と会っていた青年が、イスラエルの秘密警察に捕まり、一生を獄中で過ごすか、スパイになるかの選択を迫られる。スタッフは全員パレスチナ人で、撮影もすべてパレスチナで行われた。アカデミー賞外国語映画賞候補作。主演は「Ali and Nino」のアダム・バクリ。(KINENOTE)
あらすじ:パレスチナ。思慮深く真面目なパン職人のオマール(アダム・バクリ)は、監視塔からの銃弾を避けながら分離壁をよじ登っては、壁の向こう側に住む恋人ナディア(リーム・ルバニ)のもとに通っていた。長く占領状態が続くパレスチナでは、人権も自由もない。そんな毎日を変えようと、仲間と共に立ち上がったオマールだったが、イスラエル兵殺害容疑で捕えられてしまう。イスラエルの秘密警察から拷問を受け、一生囚われの身になるか、仲間を裏切ってスパイになるかの選択を迫られたオマールは……。(KINENOTE)
監督・脚本・製作:ハニ・アブ・アサド
出演:アダム・バクリ/ワリード・ズエイター/リーム・リューバニ/サメール・ビシャラット/エヤド・ホーラーニ
ネタバレ感想
パレスチナの作品なんて初めて。非常に社会派な感じの青春物語。こんなん見ちゃったら、日本なんてまだまだ平和だなって思うわけで、だからと言ってもちろん、よかったよかったてことにはならんけども、ここまで自由もへったくれもない社会で生きるよりはマシだってのは確かだ。
まず、この作品の街で暮らす若者たちは、自分たちの友達に会おうにもテロ対策でつくられたという街中にある巨大な壁を越えていかねばならない、10mどころじゃない高さで、主人公のオマールは友人のタレクやアムジャド、恋人のナディアに会うために、この壁にロープを吊るして上ったり下りたりして、街の反対側に行かねばならんのである。恐ろしすぎ。俺は高所恐怖症なので、まず無理。ともかく、高い。落ちたら死ぬ。しかも、イスラエル軍の監視に見つかったら、有無を言わさずに発砲されちゃうんだから、命がけ。マジであり得ない。無理。
しかし、オマールはことあるごとにこの壁を越えていくのだ。ナディアに会うためでもあり、タレクたちとイスラエル軍に抵抗するための訓練や作戦を練るためなんである。でまぁ、このオマールてのは真面目で気骨のある男なので、いろいろの災難に遭ってまうことに。いろいろあってムショにぶち込まれて、拷問を受けた末に、警察の犬として娑婆に出るか、一生、ムショで臭い飯を食わされるかの二択に迫られる。一応、弁護士は呼べるみたいだが、それでも二択なのだ。人権も糞もないのである。
で、彼はなんとか警察を出し抜いて友達も救おうと頑張るだんけども、友達だと思ってたアムジャドに裏切られてまうのだ。しかも、恋人のナディアと添い遂げることもできなくなる。アムジャドがナディアを孕ましたという(嘘なんだけど)ことを知り、彼はナディアのために、身を引く決意をし、図らずも死んでしまったタリクの意思を偽って、二人の仲をとりもってやるのである。だが、数年後にこれがアムジャドの裏切りだったことを知ったオマールは、裏で手を引いていたのが警察のラミだったことを知り、彼を射殺するのであった。
この物語の悲しいのは、ラミも含めて全員、普通に家族を持っていて、それらを大事にしているのに、政情不安が続くパレスチナとイスラエルという国にいるせいで、ラミは人の道を外れたような仕事をせざるを得ないし(嫌々やっているようには見えないけど)、オマールは人並みの幸せを得ようと頑張っていたのに、それが叶わないし、友達が友達としてかかわりあうことすらできないのだ。社会の情勢がそれを許さない。恐ろしくもあり、悲しくもある。
パレスチナの石造りの建物が並んだ街並みは、狭い路地がいくつもあって迷路みたい。その街の中をオマールはイスラエル軍から逃げようと走り抜けるシーンはパルクールのようにアクション性があるわけでもないけど、なかなかスリルがあった。日本にはない雰囲気のあの街並みは、とてもよかったな。
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