アルタード・ステーツ/未知への挑戦
―1981年公開 米 103分―
鬼才ケン・ラッセルが人類進化の謎に迫ったSFスリラー。人間の肉体が変化していく特殊メイクアップが話題を呼んだ。細胞に眠る人類進化の起源を探ろうと、タンクに浸かりドラッグを試みる学者。実験は成功し、彼は太古のイメージを見るのだが、その効果は精神だけでなく肉体にも影響を及ぼし始めていた……。(all cinema ONLINE)
監督:ケン・ラッセル
主演:ウィリアム・ハート
ネタバレ感想
生命の起源をたどれ!
副題は未知への挑戦。とにかく荒唐無稽な映画。ぶっ飛んでる。瞑想タンクとキノコの幻覚剤を使用して自分の中にある生命の根源の記憶を追体験する装置。そこに入るとすさまじいトリップ状態に陥り、自分の生まれる以前の細胞、遺伝子の記憶を見る旅が始まる。
起源をたどれば、君も原始人になれる!
主人公は宗教を捨てた男で、冒頭はそうした信仰の話などが出てきたりする。そして中盤から終盤。記憶が物質化? して彼の身体に異変が起こり、原始人に退化して生存本能のみの存在と化し、街を徘徊。しばらくして元の姿に戻る。このあたりはB級的であり、笑えるんだけど、このまま終ったらガッカリだなあと思っていた。
ドン詰まりまでたどると、宇宙になれる!
だが、この映画のすごさはここからである。心配した元妻が彼の友人を介して彼の前に姿を現す。彼女は彼の実験熱についていけなかったが彼をまだ愛していた。そしてなんとか実験をやめさせようとするも、説得されてそれに立ち会うことに。
ここで俺は、実験で原始人に退化して暴れる彼を、彼女が止めてジ・エンドと予想したのだが、裏切ってくれた。彼は原始人を通り越して宇宙になってしまうのだ。宇宙という表現が適切でないなら、あれは虚無とでも言えばいいのだろうか。
虚無、怖いよ虚無
生命は虚無に帰る。虚無から生命は生まれる。渦巻くブラックホールのような状態になってしまった彼。実験室に残された彼女は、それでも彼のことを助けようとする。彼女が渦巻きに手を伸ばすと、主人公は実体化して帰ってくる。そしてだ、その後、彼は彼女が自分にとってどれだけ必要な存在なのかを悟る。自分を虚無から呼び戻してくれた彼女に対しての感謝の気持ちと、彼女の自分に対する絆を感じたのである。彼は言う「真理を探していた。でも虚無を見てやっとわかった。真理などは絶対にない、というのが真理なんだ」。
実は主人公の成長物語でもある
彼は周囲に迷惑をかけることを知りつつも自分の根源を探る探究心を捨てなかった。深淵を覗き込みつづけた彼は、虚無の世界を体感したことでついに、一般的な人々が暮らす世界に浮上してくる。彼はやっと普通に戻ったのだ。他人にとってはとるに足らないことでも、彼はあの体験を通じて、ごく当たり前の社会人として生きられる本当の大人になったのである。
愛の物語でもあるが、それよりも
ラスト、装置を使わずに記憶が物質化しそうになる主人公。それを助けようとした彼女までもそれにシンクロして物質化し始める。しかし、彼は自分の意志でそこから抜け出し、彼女を抱く。彼女もそこで実体化して元の姿に戻る。抱き合う二人は絆を確かめ合ったのである。ハッピーエンドである。
これは素晴らしい映画である。これは究極の愛…否、究極の存在の絆を示した映画である。客観的世界を確かめ合う究極の絆の映画である!
※この記事は2005年4月に書かれたものです。
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雑談の中でも、かなり私的な話題に触れてます。映画の内容に触れながら考えていることが多いかも
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