書籍『七回死んだ男』西澤保彦 ネタバレ感想

新装版 七回死んだ男 (講談社文庫)

タイムループ系本格ミステリ小説――らしい。久しぶりのミステリ小説、非常に面白く読んだ。なので、どう面白かったのか感想を書いておく。序盤は個人的な話なので、興味ない方は、目次を見て飛ばし読みしてください。ネタバレはあり。

内容紹介・著者

内容紹介:高校生の久太郎は、同じ1日が繰り返し訪れる「反復落とし穴」に嵌まる特異体質を持つ。資産家の祖父は新年会で後継者を決めると言い出し、親族が揉めに揉める中、何者かに殺害されてしまう。祖父を救うため久太郎はあらゆる手を尽くすが……

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著者:西澤保彦

まずは無駄話

時間移動系作品

時間移動系の作品が好き。なので、このブログでもタイムリープ、タイムループものの映画作品をけっこう紹介している。なんで時間移動系作品が好きなのか、そしてどんな作品を紹介しているか、興味を持たれた方は、カテゴリやタグをたどってみてください。あと、文末にも少しだけリンクを置いておきます。

西澤保彦氏、結構有名みたいだが

で、本作であるが、その存在を全く知らなかった。俺が読んだのは新装版とかいう割と最近のものらしいが、最初に世に出たのが1998年頃。その当時の俺は大学生だった。通学時間が糞長かったので、けっこう小説は読んでいて、中でもSFやミステリーの類はそれなりに読んでいたはず。

それなのに、本作の著者、西澤保彦なる人を、ぜんぜん知らなかったのである。この人の存在を知っていたら、けっこういろいろな影響を受けていたと思うのだが、なぜこの書籍に出合わなかったのか、不思議でならぬ。この作品でだいぶ評価されて有名になったみたいだが、知る機会はけっこうあったはずなんだけど。

当時は私的疑問を言葉にできなかった

なぜ知らぬままに過ごしていたか、考えてみた。で、わかったのは、俺は時間移動系の作品に触れ、それを紹介することで自分の私的な疑問も説明することを、このブログのテーマの1つにしている(他のテーマもある)。

しかし、その私的疑問なるものを、大学生当時には言葉にできなかったのだ。自分の疑問が何であるかすら、わからなかったのだ。わかるようになったのは、25歳以降、ニートの頃にいろいろな書物に触れた結果のこと。

実は大学時代にもこの著者と作品の存在は知っていたのかもしれない。それを、いつの間にか忘れていたという可能性はある。あの時分には時間移動系の作品に対して、特に強いこだわりは持っていなかったので。だからおそらく、目にする機会はあっても興味対象に入ってこなかった可能性はある…と、本当にどうでもいい話だ。

では、何で読んだのか

それでも、まだどうでもいい話を続ける。では何で今さら読んだのかというと、職場の若い人に教えてもらったからだ。たまたま飲みの席で映画か本だかの話をしてて、時間移動系の作品で面白いのはないかと質問したところ、この作品の名が出た。いろいろ聞いてみると、確かに自分の琴線に触れそうだと思った。

ということで早速購入して、一晩で読了した。もちろん翌日は寝不足だ。続きが気になって最後まで読むのをやめられなくなる体験が、ものすごく久しぶりであった。そして、それは、長らく忘れていた、至福の時間の過ごし方であった。…前置き長い。ということで、なんで本作が面白いのかについて。

ネタバレ感想

奇抜な設定を生かしきっている

おもしろいのは、荒唐無稽でありつつも、主人公がタイムループをしてしまう設定自体を、物語の細部にまで生かしきった、緻密な構成にあると思われる。読了後に思い返してみると、ともかく繰り返す日常の描写について、かなり細かい部分まで考えて書かれた作品であったことがわかる。

どうやってこんなもん書いたのか。そもそも書く気にならんと思うの、普通は。それをやり切って、しかも娯楽としての面白味を持っているのがすばらしい。

読みやすい構成がいい

しかも、筋立てが読み手に親切だ。時系列をぐちゃぐちゃにせず、主人公の体験する時間軸をそのまま直線的に進めている(グチャグチャにする必要性はないから当然なんだが)。だから、ストーリー自体はけっこうスンナリと頭に入ってくる。

筒井康隆っぽい面白さもある

読み進めている途中、中盤以降だったと思うが、登場人物たちがお互いを罵り合って枕たたきを始めるシーンがある。そのセリフがなかなか笑えて面白い。しかも、何となく筒井康隆氏の作風というか文体に似ているなと思って読んでいた。

そしたら、さもありなん。「あとがき」で著者が筒井氏に影響を受けていたことを自分で書いている。それは「”読点”の少なさに影響を受けた」とかいう話だったけども、本作のようなSF要素を設定に入れてくるということは、著者自身SFも好きなんだろうし、だとしたら筒井氏を読んでいないわけないわな。

他者との関係づくりの難しさがわかる

リセットを繰り返す日々の中で、犯人と思われる人間が増えていき、主人公は容疑者候補を一網打尽にするため、多くの登場人物とコミュニケーションをとる。リセットには上限があるとはいえ、主人公は同じ人物と繰り返し別の話をすることで、それぞれの心の奥にある思いや、これまで触れたことのなかった人間性を知っていく。つまり、自分以外の人物たちのことを、ほかの誰よりも深く知るチャンスに恵まれているのだ。そして、そのチャンスをたくさん得ることで、自分自身の心も成長していく。

だからこそ彼は、イニシアティブを有して事件の真相に迫ることができるし、大人たちから信頼されるのだ。

で、この本を読み進めていくことで感じるのは、他者とのコミュニケーションの困難さと、それの一回性の貴重さを思い知らせてくれるところにある。

人間は普段、当たり前に、何の考えもなしに他者とコミュニケーションをとっていることが多いと思う。しかし、知らぬ間に相手を傷つけることを言っているのかもしれない。その逆もあるのかもしれない。そして、その積み重ねがお互いの関係性を形作っていくのだ。やり直しは、きかない。

だから慎重になったほうがいいとか、そんなことを言いたいのではない。しかし、やり直しはきかないのだ。そういう意味において、他者との関係作りというのは、非常に難しいものなのである。これは今現在、片思いな恋をしている状況にある人には、より、リアルに感じることではなかろうか。

最後の展開がいい

別にどんでん返しってほとではないものの、ラストに2つの驚きがある。そして、俺は素直に驚いた。特に最初のほうの、酒に酔っ払っての――という。そうやって種明かしされてみると、確かにそれまでにもたくさんの伏線があったことを思い出す。

ちなみに、もう1つの種明かしについては、親切に表まで入っていたが、俺にはようわからんかった(笑)。たぶん俺がアホなんだと思われる。ただ、読み進めて疑問に思ってたことの解答は出ていたようだ。

俺が思った疑問とは、ループを繰り返している人間が、世界がリセットされる前に死んだら、その世界はどうなるのか。そして、ループしている本人はどうなるのか――ということ。それに対しての解答にはなっていた。これも他のループ系の作品では言及されないことなんで、なかなかすごいことだ。関心する。

リセットされてもその世界を気遣う

ここからは私的疑問に絡む、この作品のよいと思ったところ。主人公は同じ日を何度か繰り返す。で、基本的には他のループものと同じで、自分が去ったあとの世界がどうなるかについては、この作品の主人公もほとんど感じていないようである。

ただどっかで、自分がいなくなった世界のことを案じたセリフがあったようななかったような。仮にあったとしたら、それって結構画期的だ。少なくとも俺は、タイムループ系の作品で、そういうことに言及しているキャラクターを知らない。

そして、そこに言及できるとしたら、作者はかなり俺に近い感覚で生きている人間ではないかと思われる。俺に近い感覚ってのは長くなるのでここでは述べない。ただおそらく、存在するものに対しての感覚や、倫理観などは結構似ているんでないかと思われる。

作品とは関係ない疑問点

作品の良し悪しとか設定とかは関係ない次元で、疑問点がいくつかある。何度か死ぬことになった祖父は、全て同一人物だったのか。というか、主人公以外の登場人物は全て、繰り返される日常の中で、全て同一人物であったのだろうか。仮にそうだとしたら、リセットされた世界は、リセット同時に消失するのだろうか。

主人公が死んだ世界で物語も進んでいたらしいが、主人公がリセットして目覚めた後、前の世界はどうなったのか。そこはやはり謎である。当たり前だが。

何でキャラ名とかわかりづらくするんだろ

登場人物のキャラクターとか名前については、他のミステリ作品同様、類型的な印象を受ける。そして、ともかく名前がありえないくらい読みづらいので覚えにくい。なんで日本の作品だと、聞いたこともないような読みづらい名前の人ばかり登場させるのか謎だ。だが、なんか意味があるのかもしらん。興味がないのはそれはいい。腐しているが、面白かったので、気に入らないわけでもない。

ということで、久しぶりに読んだミステリ小説だったが、かなり楽しめた。同じ作家の別の作品もSF設定らしいので、読んでみようかな。

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